モノノ怪-血夜桜編-
私のお腹に子供が出来て、そろそろ生まれるだろうという時期。
皆様は私の体を御心配してくださり、頻繁に訪れるようになっていた。
特に父親となる歳三様は、私を歳三様のお部屋に
置かせていただける位だった。
最近は自室よりも、歳三様のお部屋で過ごしている。

「大分腹もでかくなったな。」

歳三様は私のお腹を愛しそうに撫でながら微笑む。

「はい。よく動くようになりましたし。そろそろかと。」

「…そうか。」

私は嬉しくて仕方がなかった。
だから、歳三様の変化に気づかなかった。
今思えば、その頃から歳三様はどこか様子が
可笑しかったのかもしれない。
だって私は一度も歳三様から聞いていない。
嬉しいという、喜びを表す言葉を。
私も気づく事がなく月日が流れていった。



私はお腹に子供が居ても、自分の事は自分でやっていた。
此処には私以外の女性は居ないから、
私の事を理解できる人は居ない。
いつも大丈夫だったから、今日も平気と、思い込んでいた。
洗濯物を干そうと外に出たときに、私は前に倒れた。
そのまま勢いよくお腹をぶつけてしまった。

「ッ!?」

(私の子供が!!)

お腹に激痛が走った。血が滴り落ちる。

「嫌ぁぁぁ!!」

お腹を抑えて踞り、この結末を想像した私は叫び泣いた。

「珠姫ちゃん!?」

「珠姫!?」

叫び声にいち早く気づいてくれたのか、
一番先に来てくれたのは、沖田様と斎藤様だった。

「俺は副長と蘭医を呼んでくる。総司は珠姫を部屋に。」

斎藤様は瞬時に事を理解なさってくれたのか、
そう早口で言うと、着物を翻し足早に駆けていく。

「珠姫ちゃん、お医者様が来るから部屋に行こう。
僕が抱いていくから、しっかり掴まって。」

沖田様は私を安心させるように背中を擦ってくださる。
私の腕が沖田様の首に絡みやすいよう、
沖田様は頭を出来るだけ屈めて下さり、
いつの間にか背中と膝裏に回された手がしっかりと私を固定すると、
振動が来ないようにか、ゆっくりと歩いて
お部屋に連れて行ってくださった。
布団に寝かせてくれて、私の左手を優しく握って下さる。

「何処か他に痛いとことか、無い?」

沖田様のお言葉にただ私は頷くだけだ。
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