恋華(れんげ)
実はあたしにも、そーいうモノがある。
以前は宝物のように思ってすごく大事にしていたのに、今となっては過去の遺物――ゴミ同然でしかないモノがある。
“秋吉英二”。
22歳の誕生日の夜、あたしに魔法をかけてシンデレラにした“魔法使い”。
いや……
あたしの以前の勤務先である保険会社の営業課長。つまり“タダの元上司”だ。
もともと秋吉と最初に出会ったのは、あたしがピアノ弾きをしているクラブだった。
アノ男がクラブの常連客である以上、むしろ今までアノ男と再会しなかったのが逆に不思議なくらいだ。
その夜、クラブにはそれなりの人数のお客さんがいたんだけど、あたしは一目でアノ男を見つけてしまった。
でもアノ男と話すことなんてなにもない。
だからピアノの演奏を終えると気づかないフリをして奥の休憩室に向かうつもりだった。