恋華(れんげ)
ところが、なぜかアノ男のほうから、あたしに駆け寄ってきた。



「ひ、久しぶりだね、蓮華くん」

以前はちょっとした“ちょいワルおやじキャラ”で、いつも余裕しゃくしゃくって感じだったアイツ。

なのに、いま目の前にいるアイツは、伏し目がちで、どこかおどおどしているようにさえ見える。


あの頃のあたしにとって、アイツは身もココロも捧げつくした何物にも代えられない唯一無二の宝物だった。

だから、この男の子どもを自分のおなかに宿したんだ。


だけど……


今になってよく見てみると、目の前にいるのは、髪の毛は白髪まじり、顔はテカテカにあぶらぎって、おまけに下っ腹まで出ている“タダの中年おやじ”でしかない。


こんなのが…。

こんなのがあたしの宝物だったなんて……。

これじゃ、貴志のクソゲーと同じだ―――


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