恋華(れんげ)
「とにかく、あれがピアノだから…って見れば分かる、っつーの!」
グランドピアノの前までエスコートしてくれたアイツは、あたしの緊張をほぐそうとしてくれたのか、ピアノの椅子を後ろに引くと、
「どーぞ、お嬢さま♪」
…なんて冗談っぽい感じで言うと、流れるような右手のジェスチュアーであたしに席を勧めてくれた。
「あ、ありがとう…ございます…」
キャ!
うれしい♪
なんだかホントに、いーとこのお嬢さまになったみたいな気分だよっ♪♪
あたしが椅子に腰掛けると、その斜め後ろにアイツがスッと立った。
香水でもつけているのか、なんかイイにおいがした♪
これまで千恵の付き添いやなんかで、客観的に見ているだけだったアイツが、あたしの中の“嫌いなオトコ・ナンバー1”から一気にランキング外に出たような気がした。
それからというもの、中学時代から部活動というものに参加したことのなかったあたしにとっては、毎日の部活動がとても新鮮なものに感じられて授業が終わるのが待ち遠しいくらいだった。