恋華(れんげ)
それどころか、

「演歌を弾いてくれ!」

とリクエストされることも度々だった。


でも、あたしは拒むことなく演歌を弾いた。

あたしはクラブのピアノ弾き。

リクエストされれば演歌でもなんでも弾いてあげる。



そして今夜も、あたしはピアノを弾いていた。


お酒は苦いからキライ。

だけど、お酒に酔うことでイヤなことを忘れられるんだとしたら、お酒が飲めないあたしなら自分のピアノの演奏に酔うことで過去を忘れることができると思った。

だからクラブにいるときは、たとえまわりに人がいても、あたしはピアノを弾きながら自分ひとりだけの世界に陶酔していた。

それに何より、今は好きなピアノが弾けるだけで、あたしはじゅうぶん幸せだったし……。



「パチパチパチパチ…」



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