恋華(れんげ)
この東京であたしの誕生日を知ってる人間なんて、片手で数えても余るくらいだ。

それなのに名前も知らないこの男は今日があたしの22歳の誕生日であることをなぜだか知ってた……。


昨日まで名前も知らなかった、その男の名前は“秋吉英二”といった。



店が終わるとあたしはその男と、とあるバーのカウンター席に座っていた。

「私は“いつものやつ”を。蓮華さんは?」

「あたしは“ベイリーズミルク”をお願い」

「かしこまりました」

バーテンダーはそう言うと慣れた手つきでカクテルを作りはじめた。

「笑っちゃいますよね?あたし、クラブに勤めてるくせにお酒キライなんですよ」

「えっ、そうなんですか?」

「はい。キライなんですよ、苦いから…。でもベイリーズミルクはなんか“やわらかい”っていうか、甘くて飲みやすくて。あたしが唯一飲めるカクテルなんです」

「へぇ」

「まぁ、オトナの秋吉さんからすればベイリーズミルクなんて甘ったるくて“子どもの飲み物”みたいに思えるんでしょうけどね」
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