恋華(れんげ)

だけど、工場から少し離れたところまで歩いてくると、立ち止まって振り返り、工場をにらみつけながらつぶやいた、

「…ったく、契約する気がねぇんなら、何度も説明させてんじゃねぇよ、このハゲ!」



「ヴィーン、ヴィーン…」

そのとき不意にPHSがバイブで振動した。

「…!?」

誰からか見てみると秋吉からだった。

「はい、池田です。…課長、お疲れ様です」

「お疲れさん。その様子だと契約は取れなかったのかな?」

「“その様子”って……課長、今、どちらにいらっしゃるんですか……?」



「プッ、プッ!」



後ろで車のクラクションが鳴った。

振り返ると、路肩に1台の車がハザードランプを点滅させて停車している。

フロントガラス越しに、PHS片手の秋吉が反対の手を振っているのが見えた。
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