恋華(れんげ)
「“父親が欲しい”なんて言ったことないよ、あたし……」

「言葉にしたことだけが真実とは限らない」

「………」

「だから、たとえ“あんたの子ども”が父親なんかいらないと言ったとしても、それは真実とは限らない」

「母さん…」

「それが分かってたから……父親のいない淋しさが分かっていたからこそ、あのとき、あんたはあの男の子どもを産まなかったんじゃなかったのかい?」

「うん…」


やっぱり母さんには分かってたんだ…。
あたしがあのとき中絶をした本当の理由が…。


「そうだと思ったよ」

母さんはそう言ってビ―ルを飲んだ。

「よそ様の子どもがおもちゃ屋さんの前で“アレ欲しい!”ってダタこねるくらいの年頃には、あんたはもう最初から何も求めようとしない子になってたよね?」

「………」

「それは、あんたに父親を与えてあげなかったあたしのせいなんだって分かってたんだけど……」

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