恋華(れんげ)

『ピアノのお仕事ですか?』


「…!」

たしかに履歴書の趣味の欄に“ピアノ”って書いたけど……。



あたしはあとになって、ここで無視しなかったことを後悔することになるんだけど、ココロに隙のあったあたしにはそのときソレができなかった。

『はい。ピアノを弾く仕事です』

って返信しちゃったんだ……。



あたしは返信した後、一瞬、「しまった!」って思ったんだけど、その後、男から届いたメールはあたしの心配するようなものじゃなかった。

『よかったですね。がんばってください』

…っていう短い一文。

それが男からの最後のメールだった。



あたしはその後もアレコレしつこく訊かれるんじゃないかと思ってた。

だから自分自身の“自意識過剰さ”にちょっと恥ずかしい気持ちになった―――――
< 84 / 201 >

この作品をシェア

pagetop