恋華(れんげ)
あたしにとってピアノは、唯一与えられた自己表現のための“言語”なんだ。

自分のキモチを音楽に変換することで、はじめて他人に伝えられる。

だから、あたしからピアノを奪うことは、ココロのドアに外からカギをかけるのと同じなんだ。


こうしてピアノを弾いている時間こそ、
あたしがあたしを表現できてる時間であり、
“生きている”って実感できる時間だと思う。



「パチパチパチパチ…」



演奏が終わると、クラブの客たちのあいだからパラパラとした拍手が聞こえてきた。

あたしは客に向かっておじぎをすると、わき目もふらず店の奥の休憩室へと向かった。


…と、そこへ、薔薇の花束を手にメガネをかけた20代前半という感じの男が現れた。

「素晴らしい演奏だったよ♪」



「…!!」



“デジャヴ”かと思った。
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