桜咲くころに

‘このまま・・・・・星夜にすべて話していいの?’

‘怒らない?’

そして、一番気になったこと。

‘星華はどこに行ったの?’

行き先聞いてないよ。
留めなく不安は、押し寄せる。
うちは顔から右手を外し、周りを見渡す。
気付けば空は暗くなり始め、時計はもう6:30を回っていた。
星夜の部屋から見える桜の木が、遅い開花に、不安を持っている様に見えた。
星夜に出会った4月。
桜が咲き始めた。
今の季節は5月。
桜が散って行く中、本当に遅い開花だ。
桜のピンクが、黒に少し濃藍の混ざった、紫の空に染まる。
薄紫の桜。電灯がスポットライトの様に、桜を照らす。
とても綺麗。
この時間の日暮れは早く、数分で空は黒に染まり、桜は闇に呑まれて行く。
その瞬間をジッと見つめるうちに、星夜が顔を上げ、右手を伸ばす。
うちの目尻を星夜の綺麗な人差し指がなぞる。
いつの間にか、うちは涙を流していた。
たぶん、季節外れの桜と、自分を掛け合わせてしまったのだろう。
そう考えると、涙がこみ上げる。
「な・・・・・。桜・・・・。泣くなよ・・・・。」
星夜。
それは、星夜も言えないよ?
星夜、気付いてないかもしれないけど、星夜の指。
震えてるよ?
星夜も不安なんだよね?
うちに、どんな現実を突きつけられるのか、不安なんだよね?
でもね?うちは信じてるよ。星夜はどんな現実を知っても、星華を守れるって。
星夜は本当はいいお兄ちゃんだもんね?
うちは、確信にも似た、安心感を覚え、重たい唇を開いた。
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