桜咲くころに
外が明るいから、電気がついていないのに、目を細めてしまうほど、眩しさの積もる廊下。
「もう。いや・・や・・・。」
そう呟いてしまったら、スクールバッグがより重く感じる。
‘ずしっ’とした何がか、うちの背中に伸し掛る。
でも形のある物ではない。
どこからどこへ生まれたのか分からない、罪悪感。
誰のどこへ向かってかも分からない。
分からない方がいいのかもしれない。
「・・・・・!・・・・ン!!」
もう見えなくなった本舎から学年棟に向かう本舎スロープから声が聞こえる。
振り返ろうか、一瞬戸惑った。
でも、うちを呼ぶ人なんていない。
昔から1人で生きてきたうちには、星夜と星華以外の声を覚える力なんて、どこにもあるはずもなく。
スタスタと先を急がす肩に、次は形のある物が乗る。
重いスクールバックが食い込む肩の上から、重い手が乗る。
「ちょ・・・!誰ぇ??」
痛みに耐え切れず、後ろを振り向く。
「・・・・ハァ・・・桜・・・チャン・・・。」
この黒と金の髪・・。
零君だ。
零君は、過呼吸にでもなったかの様に、息を切らしている。
両肩を上下に揺らし、うちの肩に乗っている右手以外を下へ向ける。
「ねぇ・・ちょっと。痛いんやけど・・・。」
星夜と居てもつくづく思うが、男の子の力ってすごい。
細い腕の子なんて、折っちゃいそうなくらいだ。
「っあ!ごめんなぁ!あのさ!今日星夜知らん??見当たらんのやわ。」
そういえば、星夜は追いかけてこなかったとしても、やけに遅い。
「朝まで一緒やったけど、知らんわ。」
例え知っていても、零君には教えるつもりはない。
零君は、いつの間にかうちの前を歩いていた。
「ふ~ん、せなこと言うてええんや。つぅか、‘零君’やなくて、‘零’でええよ?零で。」
零。
本当に不思議な男。
そして、どこまでもずるい。
ウザイのに、許せてしまう。
     
        *     *     *

「れ~いっ!」
教室の前まで着き、零に別れを告げようとした時。
背後から聞こえる明るい声で、タイミングを逃す。


< 24 / 31 >

この作品をシェア

pagetop