裸足のシンデレラ
「呼び捨てで呼ばないようにできないの?」

「なんで?呼び捨て嫌い?」

「そうじゃないけど、あなたに呼び捨てで呼ばれなくちゃならないほど私達、仲が良くないわ。」

「俺は仲良しだと思ってんだけど?」

「勘違いよ。」


…いけない。こいつのペースにいつも飲み込まれそうになる。


「里穂、今日何コマ?」

「あなたの英語だけよ。」

「おーマジか。じゃあ気合い入れて教えるからな。」

「好きにして。」


私は自習室に向かった。
こいつの英語が始まるまでまだ15分もある。
とりあえずギリギリに入ることだけは決定だ。


…馴れ馴れしいこの男。
小嶋貴也(コジマタカヤ)。年齢不詳。最近入ってきたばかりの塾講師。
何かと私に話しかけてくる、貴重と言えば貴重な存在。
基本的に塾長ですら私には話かけない。
自分で言うのもなんだが、私は塾に入らずとも成績は良い。
だから塾長も特に何の心配もしていない。
元々母の気休めなのだ、塾なんて。


…ぼーっとしているとあっという間に時間が過ぎる。
仕方ない。今日も端っこに座ろう。

私は講義室のドアをゆっくりと開けた。
そしていつもの定位置、つまりは一番後ろかつ一番奥に腰かけた。



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