*恋文戦線*


プチパニックを起こしていたひなは、ブーンというバイクの音で、やっと状況を理解する。


今まで自分が仁王立ちしていた場所を、すごい勢いでバイクが通っていったのだ。


渡辺の胸に額を擦りながら、いつも以上に強く感じる"男の人の匂い"に急に心臓がバクバク言い出す。


な、な、な、、。


「………。」

頬を赤くして動けないで居ると、ふと頭のすぐ上からクスクス笑いが落ちてきた。

ひなはハッと我に返り、パッと渡辺から離れ目も合わせずにもごもご喋る。


「う、わ…ごめ…っ、…ありが…。」


「えーー?なんて?聞こえない。」


明らかに馬鹿にしたような渡辺の声に、途端にひなは不機嫌になった。

顔を見上げなくても分かる。

確実にいまニヤニヤしてる…っ!

「……っ、アリガトウって言ってんでしょ!」

「クスクス…じゃぁ条件二つ目もクリアだね。」


「?!」


…はぁ?!


次々と強制的にクリアされていく条件に、ひなは焦り始めた。

もう、もう二つも…?!

ヤバイ。それは非常にヤバイ。


ワタワタするひなに更に笑いを落として、渡辺はポンポンと小さな頭に手を置く。

「冗談だよ。…今までいじめすぎたからね。"優しさ"はそのまま保留にしておく。」

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