*恋文戦線*
◆結論から言うと、映画はめちゃくちゃ面白かった。
面白かったけど…
「…何?」
映画館の入り口の前で渡辺はさも楽しそうに振り返る。
「…。」
じとっとふてくされたように睨むひなは、仕方なしに目をそらした。
「…途中から、集中出来なかったんですけど。」
渡辺は余裕の表情で応える。
「へぇ。それは大変でしたねえ。何かあったんですか?」
こいつ…っ!とひなは険しい顔で上を見上げた。
「あんたが余計な事してきたからでしょうが…っ」
薄暗い映画館の中、ウキウキワクワクと映画にのめり込んでいたひなの右手が何かに包まれたのはちょうど中盤。
え、とスクリーンを見つめながら固まり、それが渡辺の左手だと分かるまで、たっぷりと2秒かかった。
頭では適当に振り解けば良いと分かっているのに、それが余りにも優しく、温かく包み込むので。
ひなは暗示でもかけられたかのように身動き一つ出来なかったというわけだ。
それを良いことに。
「ちょっとやることなすことなんかエロいんですけど…!」
ひなは渡辺の背中に吠えた。
「だってひなが遊んで下さいって…」
「言ってない!」
あろうことにこの男、その後ひなの指で遊び始めたのだ。
ひなの手の甲をゆっくりした動きですす…っとなぞり、人差し指まで到達したらまた降下する。小指をじわっと摘んだり…
親指を絶妙な力加減で撫でたり…。
抵抗するタイミングを完全に逃したひなは背中に大量の冷や汗をかきながら、全然頭に入って来ないスクリーンを見つめ、懸命に集中するしかなかった。