*恋文戦線*

集中するしかなかったが、そんなものこっち方面ではレベル1の勇者成り立て野郎には無理なわけで。

まだまだなにか言い足りず、更に吠えようとしたひなに渡辺は急にゆっくりと優しい声でそれを抑えた。



「けど、ひなは抵抗しなかった。」


「…っ!」


少し高い位置から切れ長の瞳が艶めかしい視線を送る。


薄く微笑んでいる余裕の表情で渡辺は自然にまたひなの手を取った。


「…期待、しておくから。」


決意表明のように静かに言葉を放つ渡辺を、ひなは固まりながら見つめ返す。


渡辺の手のひらが、やたら熱く感じた。


急に空気が変わったような気がして、ひなは視線を外す。


迷子のように色んな所を見つめるが、手だけは、もう捕まえられて居て。



「ぇ…、あ、…。」


なんて言ったらいいか分からないままに、ひなは口を開く。

でもやっぱり、言葉らしい言葉は出てこなかった。


な、なんだこれ。

どうしよう…。



渡辺のいつもは冷めきっているはずの熱い瞳に、首筋が熱を持つ。



なんだこれなんだこれどうしようどうしようどうしよう。




そんな時。

完全にパニックに落ち入りかけたひなの耳に、聞き覚えのある声がとどいた。



「あれ?ひなちゃん?」




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