*恋文戦線*
バッとひなは反射で渡辺の手を離す。
今まで熱かった手のひらに、冷たい風が切った。
「偶然だなっ」
「せせせ先輩…っ!」
入り口から小走りでやってきた多田が、ニカッと爽やかに笑う。
「あれ?彼氏?」
「ちっがいます!!」
いつものテンションで完全否定。
恥ずかしいのとなんだか体温が高いのと。
とにかくひなはパニックになっていた。
渡辺と、なんか変な空気になってしまって、更にそれを先輩に見られて。
ヒェーとひたすら冷や汗をかく。
だから気付けなかった。
後ろで不穏な空気のまま黙っている男に。