*恋文戦線*
「先輩も映画ですか?あ、もしかして、はるか先輩と?」
どうやら一人で来ているらしい多田の後方を確認して、後から誰か来るのかとひなは首を傾げる。
学校でも仲睦まじい二人なので、映画とくれば自然とデートなのだろうとひなは思い込んだ。
しかし多田は少し寂しそうな顔をして曖昧に首を振る。
「まぁ…そうだったんだけど、な。」
多田の様子に、ん?とひなは妙な違和感を覚えたが、尋ねるより早く離したはずの手を握られ強く斜め後ろに引っ張られた。
「すいません、では。」
「え…?っちょ、っ」
強引に会話を終わらせ、渡辺は多田に黒い微笑みを作る。
突然の横方向の重力に、さすがのひなも体のバランスを崩した。
「ぉお、悪いな邪魔して。」
ニカッと申し訳なさとからかいを混ぜたような顔をして多田が笑う。
ひなはバランスを崩しながらも、勘違いしたような多田の微笑みに遅れて衝撃を受けた。
「ち、違いますからねーーーっ!色々!本当!」