*恋文戦線*
*
「だぁぁぁあぁああもう、絶対勘違いされた。」
ファミレスの一角でクリーム色の机に両肘を着き、ひなは豪快に頭を抱えて下を向く。
最悪…最悪だ…と呟きながら揺らすポニーテールを渡辺は冷めた目で見つめ、ズズズズと遠慮なしに美味しそうなクリームソーダをすすった。
「彼女持ちになにを今更。」
「これとそれとは話が別っ。」
彼女を持っていようが結婚してようが、多田先輩は憧れのキャプテン様。とにかく先輩に変なところなんて見せたくない。
ぐにーっと眉を情けない八の字に曲げ、ひなはテーブルに頬を着けながらグラスについた水滴を見つめる。
そのまま視線を渡辺に移すと、相手は諦めたようにハァとため息をついた。
「…ちなみにどこがそんなに良いわけ?」
「聞く?聞いちゃう?よし、今夜はここで多田先輩の数々の素敵伝説を…」
「あ、いいや、やっぱりいい。」
プイッと不機嫌そうにそっぽを向く渡辺を、テーブルに頬をつけたまま見上げ、ひなは言う。
「そんなに私の事好き?」
「………、は?」
横を向いたまま、視線だけこちらに送りながら固まる渡辺に、ひなは負けじと見つめ返した。
見つめ合う事3秒。
渡辺は諦めたように息を吐く。
「………そんなに赤くなるなら、言わなきゃ良いのに。」
成功したかと思われたひなの反撃は、両刃のやいばだった。
自分の言った言葉に、時間差で顔を真っ赤にし、今度こそひなはテーブルに顔を埋める。
…やっぱ、言わなきゃ良かった。