鳴神の娘
奥の天幕に柔らかい毛皮を敷き詰め、そっと華奢な体を下ろした。
起こさないように、天幕から離れた。
そして少女の眠る天幕に続く、唯一の入り口の前に陣取った。
「おう」
「静かにしろ。起きる」
「すっかり骨抜きにされてやんの」
けれどその変化を笑顔で迎えても、嘲笑いはしない。
幼馴染のルークは、ビノーを勧めてきた。
ビノーはビノグラという果物を発酵させた酒だ。
さっぱりして深酔いしづらい為、戦場では水代わりに飲まれるくらいだ。
「お姫様は奥で寝てるんだ?」
「泣き疲れたらしい」
「・・・・なるほど」
甘酸っぱいビノーを一杯。
先にルークが飲み、俺が飲む。
「お姫様、子供みたいに見えたけどビノーは飲めるかな?」
「さあな」
本当は知っている。
抱いた時、その体が柔らかく、もう大人の女といって差し支えないことを。
誰にも教えないが。
「起きたら僕にも紹介して」
「ああ」
そしてつまみを胃に入れながら、他愛も無い話をしていた時だった。
将軍の一人が、その顔を真っ青にして天幕へ入ってきたのは。
「カール大隊長が・・・和平に立った者ですが・・・死にました」
終わったはずの戦いが、息を吹き返した。