世界が終わる前に
ごくごくたまに首を突っ込んで来ても、母の言葉をそっくりそのままに復唱するだけの父は、はっきり言っていくら一家の大黒柱と言えども、我が朝吹家では何の力もなかった。
しかし、それは父だけではなく、兄と姉も同じだった。
だって、二人とも私を守ろうだなんてしてくれなかったのだから。
――…兄の香介に関しては、特にそうだったように思う。
兄のいつも冷静な冷めた眼差しは、私を酷く臆病にさせるような不思議な力強い眼力があった。
他人よりずば抜けて容姿端整で綺麗な兄は、その無表情と冷厳さを決して崩さない。
そんな家族なのに、まるで他人のような兄のくしゃくしゃな笑顔を見たのは、いつが最後だったのだろうか――。
……もう忘れてしまった。
いつしか兄とは、あまり口さえも聞かなくなってしまっていたから。
正直、私にとってそれはとても寂しかったけれど。