世界が終わる前に
「キャー!!!!」
呆然と立ち尽くす私を無視するかのように、麻子ちゃんの悲鳴にも似たそんな感極まった叫び声が、雑居ビルの入口全域に響き渡った。
……どうして?
そう思わずには、いられなかった私は弱くて狡い。
だけど、沸き上がる様々な感情が次々と溢れ出して、どうしようもない。
「ちょ、ちょっと、奈緒ちゃん!」
そう興奮気味に鼻息をふんふんと荒ぶらせながら、私の肩を無遠慮に揺する麻子ちゃんの喚声や。
「なに?あれが噂の朝吹のコレ?」
あからさまに、にやにやしながら親指を立てる男子の台詞も。
「嘘!あの人が奈緒ちゃんの瀧川中の彼氏!?なんか暗くてよく見えないけど、かっこいいっぽい!」
言いながら麻子ちゃんと同じく少し興奮気味に、頬を赤らめる女子の黄色い声も。
今の私の役立たずな耳には、全く届かなかった。