世界が終わる前に
少し冷たい夜風が、緊張で高まった熱を程よく冷ましてくれて、とても心地好かった。
そして、てっきり駅に向かって歩くかと思っていたら、公園を出て暫く行った場所に自転車置き場があって、そこから一台の自転車を出した黒斗くんを見て唖然とした。
「乗れよ」
そう言って自転車に跨がった黒斗くんを見て、絶句した。
「早くしろよ」
「え?……で、でも、」
「いいから、乗れよ」
「わ、悪いから、」
「ここら辺、危ねェだろうが。つか、あんた一人で夜道歩かせるワケにいかねェんだよ」
「……わ、私の家まで、二駅分もあるよ?」
「関係ねェ……大人しく送られろ」
「……あ、ありがとう」
頷いた私を見た黒斗くんは「ああ」と短く答えて前を向いた。
それからそろそろと荷台に跨がると、目の前にある細身な黒斗くんの広くて逞しい背中に心臓が暴れ出した。
由紀ちゃんとは、全然違う“男の子”の背中だ。