世界が終わる前に
それから遠慮がちに、黒斗くんの腰辺りの制服の袖を掴んだけど、そうじゃなかったらしくて強引に両腕を引かれて、前のめりに抱き着くみたいな格好になった。
恥ずかしくて慌てて離れようとしたけど、グンッと勢いよく自転車が走り出したから、離すタイミングを逃してしまった。
黒斗くんとのゼロに縮まってしまった距離に、緊張がピークに達して、頭は真っ白だった。
より一層強く香るシトラスと、細いのにガッチリとした背中と胴体を間近に感じて、収まる事を知らない胸のドキドキが伝わってしまいそうだった。
……本当に、黒斗くんは狡い。
もう……大好き、だよ。
こんなにも私を翻弄してドキドキさせる黒斗くんが、大好き。
退屈そうな横顔も。
意外に可愛い笑顔も。
眉間に皺を寄せる仕種も。
ぶっきらぼうな口調も。
不器用な優しさも。
全部、大好き。
未完成だった“想い”が、確実な“恋”になったと気づくのに、そう時間は掛かからなかった。
私は、黒斗くんに、恋してる。