世界が終わる前に
そこには、もう黒斗くんの姿は無かったけれど、私は興奮冷めやらぬまま、ぼんやりと自宅の門前を眺めた。
街頭もない住宅街を下弦の月の僅かな月明かりが朧げに、そこを照らし出してた。
まだ残る黒斗くんの背中の温もりと残像が、私の意識を占領する。
まだ脈打つ心臓は、止む事なくドクンドクンと音を奏でていた。
「…――奈緒、」
不意に後ろから聞こえたその柔らかい低い声にハッとし、慌てて振り返った視線の先には――…
すっかり閉め忘れ、開け放されていた扉に背を凭れながら、胸の前で腕組したお兄ちゃんが立っていた。
無表情なお兄ちゃんの身に纏う濃紺の制服は、無表情とは正反対に心なしか少し着崩れているような気がした。