世界が終わる前に
そんなお兄ちゃんが酷く懐かしげに見つめているのは、真っ白い壁に掛かったコルクボードに飾られた一枚の古びた写真。
――あの写真だった。
幼い私が幼いお兄ちゃんに抱き抱えられた、唯一の家族写真。
「これ、だいぶ昔のヤツだろう?奈緒……お前、よく持ってたな」
関心したように呟いたお兄ちゃんは、本当に柔らかい表情に優しい笑みを浮かべていて、妙に胸の奥がキュッとなった。
「あ、う、うん……それしか家族写真なくて」
「……そうだな」
酷く悲しげにそう呟いたお兄ちゃんの横顔が、何となく陰ったような気がした。
だから……。
だから、だから。
何故かなんてわからないけど、慌てて私は思いつくままの言葉を乱暴に紡いだ。
「あ、あのさ!お兄ちゃん……覚えてる?」