世界が終わる前に
その時、私はお兄ちゃんと数年ぶりにまともな会話が出来たという事よりも、お兄ちゃんが普段の冷徹さをおくびにも出さなかった事が……何となく一瞬でもあの頃の優しいお兄ちゃんに戻ってくれたような気がして、嬉しかったんだと思う。
今まで感じていた距離が嘘のように一気に縮まったような、やっと他人から家族に戻れたような……そんな気がしていたんだ。
それは至極一方的な感情で“自己満足”になってしまうのかもしれないけれど、それでも心がじんわりと温かくなったのは事実で……つくづく私という人間は単純なんだな、と思った。
……でも、やっぱり話せて良かったと思う。
だって、もしお兄ちゃんとこんなふうに話してなかったら、いつ話せていたかなんて、わからない。
……もしかしたら、永遠に話さなかったかもしれない。
双方のどちらかが死んでしまうまで、ずっと――話さなかったかもしれない。
そう思ったら、何だか急に怖くなってゾッとした。