世界が終わる前に


「奈緒ちゃん、今日は何だかすごく機嫌がいいのね?」



今日は暇だから特別にタダで、と私の軽くなった髪の毛をコテで器用に緩く内側に巻きながら、担当美容師の木下さんが言った。


因みに木下さんは、大人のお姉さんって感じで落ち着きのある女の人だ。

しかもなかなかの美女である。

歳は確か今年で二十八歳とか言ってたっけ。



「そ、そうですかね?」



的を射たような木下さんの鋭い質問に、内心ドキッとした私だったけれど、なるべく平静を装(よそお)った。


お兄ちゃんの事もあったし、無意識の内に顔や雰囲気に嬉しさが出てしまったんだろう。



「うん……なんか今日の奈緒ちゃん“恋する乙女”って感じで、すごく可愛いよ。若いって、いいわねぇ……羨ましい」


「えッ!?」


「ん?」


「こ、恋する乙女ですか!?」



今度はドキッでなく、ギクッと心臓が跳ねた。


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