世界が終わる前に


「うん、そうよ。素直になるってなかなか難しいでしょう?……皮肉だけど、年齢を重ねれば重ねる程、人間って素直になれなくなっちゃうのよね……」



嫌な生き物だよね、と言って笑った木下さんの表情は何とも言えないくらい、悲しそうだった。



「……そうなんですか?木下さんも素直になれないんですか?」


「ふふ、そうね。でも、わたしの場合は素直になれないじゃなくて、なり方がわからないのかもしれないわね……。どうしてなのかしらね?視野が広くなればなる程、見えなくなるものが多いだなんて……本当に嫌な生き物だわ」



伏し目がちに独り言のように呟かれたそれが、何を意味しているのか、わからなかった。


ただ――人間が嫌な生き物だという事には、酷く共感した。


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