世界が終わる前に
「…――おい、マオ。面かせ」
「は!?何よ、あたしこれから、」
「いいから」
めっきり興奮してる「ハセガワマオ」を宥めるように黒斗くんは彼女の腕を掴むと「悪い、ちょっと待っててくれ」と私に言った。
その瞬間、私の中でプツリと何かが切れた音がした。
「……える」
「え?」
「帰る」
自分でも驚くほどの冷たい突き放すような声が出た。
それから素早く踵を返して歩き出した私を「は?ちょ、おい!」っていう黒斗くんの焦ったような声と、
「クロト、本人が帰るって言ってんだから別にいいじゃん。女は追われると逃げる生き物なんだから、諦めな」っていう「ハセガワマオ」の甲高い声が追いかけて来たけど、私は歩みを止める事なく、むしろスピードを上げて駅までの道を突き進んだ。