世界が終わる前に
ううん、違う。絶対違う。
そんなものは、ただ由紀ちゃんの個人的な“偏見”であって、黒斗くんの本心ではないと、そう思いたかった。
しかし、実際に黒斗くんは追いかけても来ないのが現実で。
独り駅までの道を歩く虚しさと、現実の残酷さに酷く息苦しくなった。
どうして……。そんな思いばかりが胸中を駆け巡る中、駅のプラットホームに辿り着いた私の耳に構内アナウンスに交じって低い声が聞こえた。
「…――奈緒!」
聞き覚えのある低いその声と、呼ばれた自分の名前に、思わずビクッと肩が大袈裟に震えた。
同時に一時的に止まっていた涙がまた溢れ出した。
素直に後ろを振り向く事が出来ないのは、私の弱さと醜さの所為だろう。
そんな私は、咄嗟にちょうどプラットホームに到着した電車に素早く乗り込んだ。