世界が終わる前に
逃げる事を選んだ私は、やっぱり弱くて狡い女だろう。
でも――…
「待てよ!」
黒斗くんは、いつもの冷静な物腰とは掛け離れたような荒々しい声と共に、私に続いて乗車した。
走ってきたのか、ハァハァと肩で息をする黒斗くんを、私はやっと真正面から見つめた。
「なんなんだよ、いきなり帰るって……」
プシューッと気の抜けるような扉の閉まる音と同時に、ガタンと左右に揺れて走り出した電車は徐々にスピードを上げた。
「つか、なんで泣いてんだよ」
涙で滲んでしまった視界に映る黒斗くんの表情はよくわからないけれど、いつになく悲しそうな声色に胸がズキズキと痛んだ。
先程までとは裏腹に黒斗くんに対して申し訳なさが込み上げた。
けれど、気が緩まった瞬間、目の前の黒斗くんから香った女物の甘いフレグランスの匂いに、切なさと苛立ちで胸がギュッと締め付けられた。