世界が終わる前に
黒斗くんの体に染み付くあの子の残り香にさえ、嫉妬してしまう私はやっぱり愚か者。
嫉妬心に駆られた私は「とりあえず俺の話を聞いてくれ」と言って距離を詰めた黒斗くんを思い切り睨みつけた。
「黒斗くんと、話す事なんかない」
自分の声とは思えない程、冷たい低い声で言い放った。
そして、タイミングよく地元の駅に到着した電車の自動ドアが開いた瞬間、素早く私はプラットホームに降り立った。
「奈緒!」
追いかけてくる黒斗くんの声すら苛立ちを覚えた。
せっかく呼ばれた名前さえも、今は憎らしく思えた。
「おい!」
「……」
まさに、いたちごっこも同然のようだった。
「待てよ!」
「追いかけて来ないで!」
「待てっつってんだろうが!」
「顔も見たくない!」