世界が終わる前に
そして、一瞬衰えた聴力と思考力を更に無力化するように、黒斗くんは言葉を紡いだ。
「あんた前に……理由、聞いたよな」
黒斗くんのさらさらとした綺麗な黒髪が、夕日の暖かなオレンジに照らされてほんのりと赤茶色に染まる。
静かな住宅地には、驚くほど鮮明に黒斗くんの声が響いた。
「……り、ゆう?」
頭は真っ白でも、口は無意識に言葉を紡ぐから不思議だ。
思考の覚束ない私の問いに「ああ」と短く答えて頷いた黒斗くんは、至極冷静な物腰で言葉を続けた。
「俺があの日、あんたを呼んだ理由だ」
真っ直ぐこちらに向けられた黒斗くんの黒目がちの澄んだ綺麗な瞳は、酷く真剣な眼差しだった。
だけど、そんな瞳に見つめられているだけで、私の馬鹿な心臓は情けなくも早鐘を打ちはじめてしまう。
やっぱりどう足掻いても黒斗くんに“惚れてしまっている自分”に酷く嫌気がさしたのは言うまでもないだろう。