世界が終わる前に
でも、そんな悠長な事してたら不意に左側から「奈緒、」と少し控えめな相田さんのハスキーボイスが聞こえた。
あまりにも急すぎて突然、今まで“朝吹”呼びで赤の他人だったはずの相田さんに、わざとらしいくらいに親しく下の名前を呼び捨てで呼ばれた事に対して、違和感を抱く暇も今の私にはなかった。
「……な、何?」
「あんた何か食べんの?」
「え、あ、ううん……いい。……いらない」
せっかくだけど、この状況で何かを食べるなんて無理。
とてもじゃないけど、緊張して食べれる雰囲気じゃない。
「あっそ。んじゃ全員分の飲み物、取りに行って来てよ」
「……え?」
なんで私なの……?
そう不思議に思ったけど、咄嗟に俯いていた顔を上げて自分の座った席を見たら納得した。
皮肉にも私が座っていたのは、一番端の通路側の席。
つまりは、これが普通。
こうなって当たり前。