世界が終わる前に
多分ここに座ったのがもし私じゃなかったとしても、この席に座った人間なら半強制的に、離れた場所にあるドリンクバーまで飲み物を取りに行く事になる。
それが地味な“私”にも“この人種”にも共通した“ファミレス”での一般常識だ。
言わばルールみたいな。
それから急かすように「奈緒、早く」と言った相田さんに、とうとう諦めの溜め息を零した私は、誰にも気づかれないようにもう一度小さくハァと溜め息を吐き出した。
男女比は六対六だから、全部で飲み物は十二人分。
一体、何回往復しなきゃいけないんだろうか。
誰か一人くらい、手伝ってくれたりとかはしてくれないんだろうか。
そう思いながら、既に私なんかには目もくれず状態で話し込むみんなを横目に、ゆっくりと俯いたまま立ち上がった時、
「…――俺も行く」
酷く穏やかな、低い声が聞こえた。