世界が終わる前に
「……帰んの?」
…――視線の先には、やっぱり気怠そうに両手をポケットに突っ込む、やけに大人びた彼の立ち姿があった。
あまりにもびっくりし過ぎて、心臓が飛び出すかと思った。
高鳴るこの胸の鼓動は、単なる驚きによるものだけの所為なんだろうか。
「……はい、あの……帰り、ます」
絞り出した声は、意外にも震えなかった。
「へえ」
私が帰るか帰らないかなんて、全然興味なさそうな彼の短い返事に、何故かやっぱり悲しくなる。
「……私なんか、来るべきじゃなかったんです。ホント場違いですよね」
「……」
「あ、今日は奢って下さってありがとうございました。……でも、私がいても迷惑になるだけなので……今日はもう帰らせて下さい」
「……」
「本当にごめんなさ――…」
そう言いかけた謝罪の台詞は、最後まで言えなかった。
彼は真っ直ぐにこちらを見つめて私を鋭い視線で捕えると「なあ、」と、低く呟いた。