世界が終わる前に


私の腕を掴んだまま繁華街を形振り構わず突っ切る彼の、広くて逞しい背中。


仄かに汗ばむその背に少し張り付いた白いワイシャツから浮き出た肩甲骨が、すごく色っぽくてドキドキした。


掴まれた掌の大きささえも男らしくて、胸が焼けるように熱くなるのを抑えられない。


どれくらいの速さなのかわからないけれど、目まぐるしく、且つ何処かスローモーションのように変わってゆく景色。


しかし、一向に歩みの止まらない彼に戸惑った。


どこに行くの……?

どうして私なんかと……。


そんな不安が脳裏を過ぎって、咄嗟に私は彼の背中に向かって叫んだ。



「ちょ……あのっ、待って下さい!」







「……何だよ?」



突然はたと立ち止まった彼はゆっくりとした動作で振り向くと、背の低い私を高い位置から見下ろして、やっぱり低くも穏やかな声を出した。


思ったよりも近い距離に彼の顔があって、また少し顔が熱くなる。


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