世界が終わる前に
全くの予想外な彼の台詞に、思わず間の抜けた声が出てしまった。
「……へっ?」
「シュクダイ、すんだろ?」
何やら私の反応が気に障ったのか、途端に不機嫌そうに寄った彼の形の良い眉。
それでも私の腕を掴む彼の大きな掌は、やっぱり酷く優しくて、また鼓動が高鳴った。
……でも、あきらかに彼は、学生鞄なんてものを持っていない。
もちろん私は学生鞄を持っているから筆記用具も宿題もちゃんとあるし、何なら電子辞書なんかもある。
けれど、彼はどっからどう見ても学生なのに肝心の学生鞄を持ってないから、図書館に行っても何もする事がないじゃないかって危惧してしまう。(読書も絶対しなそうだし……。)
「あ、はい……あの、でも」
「何だよ?」
「……いいんですか?」
そのまま図書館に行く気なんですかって、意味を込めたつもりで私はそう言ったんだけど、
「別に悪いなんて端から言ってねェだろ?」
……どうやら鈍感らしい彼には伝わらなかった。