世界が終わる前に
「あ、でも、あの……どうして、」
そんなに優しいんですか?
そう聞こうとしたけれど、彼が「とりあえず、行くぞ」と背を向けてしまったので最後まで言えなかった。
私はただ「はいっ」と返事をするしかなくて、同時に離れてしまった彼の掌を酷く名残惜しいと思った。
離された大きな掌は、今は制服の黒いスラックスのポケットに突っ込まれていて。
やっぱりその後ろ姿も、すごく大人びていて、隣を歩くのはとても気が引けてしまったので、彼の一歩後をついて歩いた。
夕日に向かって歩く彼の背をずっと見つめてた。