世界が終わる前に
「はい!……あ、の……もしよかったら名前を……教えて下さいっ」
ずっと知りたかった。
聞きたくて仕方なかった。
彼の名前。
ううん、名前だけじゃなくて。
誕生日とか血液型とか、何でもいいから彼の事が知りたかった。
緊張から私は手元の鞄をギュッと握り締めて、彼の答えを待った。
そして――…
「……クロト、」
彼の薄い唇が綺麗に動いた。
「え……?」
「ウルシバラ、クロト」
…――その瞬間、流れる全ての時間が止まったような気がした。
ドクンと大きく脈打った心臓の鼓動が、やけに五月蝿く感じる。
彼の低く呟いた名前が、頭の中で何度も何度も木霊する。
だって。
だって、だって。
……嘘でしょう?
ウルシバラクロトって……そんなまさか……ありえない。