世界が終わる前に
「まさか……彼氏とかじゃないだろうな?」
「……ち、違うよ!」
意味不明、且つほんのちょっと怖いお兄ちゃんの尋問に、慌てて首を横に振って全力否定した。
途端、あからさにホッと安堵の溜め息を零すお兄ちゃんに、私は怪訝を孕んだ視線を向けた。
「どうしたの?なんで、お兄ちゃんもここにいるの?」
「ああ、用があったんだ」
思い出したようにそう言ったお兄ちゃんは続けて「それより、」と言いながら、さっきまで彼が座っていた向かいの椅子に座った。
「あいつと知り合いなのか?」
「……あいつ?」
「さっきの男だ……あの目つき悪いヤツ」
「……目つき悪くないよ、きっと視力が悪いだけだよ」
「そんな事はどうでもいい。奈緒……本当にあれと知り合いなのか?」
まるで彼の事を見下すかのように“あれ”って言ったお兄ちゃんに思わずムッとした。
だって、きっと彼は悪いヒトじゃない。
根拠なんてないけど、絶対そうだって言い切れる。