世界が終わる前に
それから薄汚れたコンクリートの階段を駆け登り、受付を通って少しざわつく教室に足を踏み入れた。
「…――ねぇねぇ、奈緒ちゃん!」
そう声を弾ませて後ろ側から無防備な私の肩を叩いたのは、小学生の頃からの所謂、塾友達の麻子ちゃんだった。
くりくりとした目がいつもより大きく見開かれていて、そのあまりの迫力に私は思わず肩を竦(すく)めた。
「……どうしたの?」
「あたしね?昨日、見ちゃったんだ!」
興奮気味なのか鼻息を荒くする麻子ちゃんに若干引きつつ、「何を?」と至って冷静に返した。
「奈緒ちゃんと奈緒ちゃんの彼氏だよ!一緒にラブラブしてるの見ちゃった!」
そう言うなり麻子ちゃんは、照れたようにポッと頬を赤らめた。
聞き捨てならぬ台詞を吐き出した麻子ちゃんを、つい私は数秒間まじまじと見つめてしまった。