透明にんげん。
そんなことをぐるぐる考えてると、一人の男が彼女に殴りかかってる。
……危ない!
僕は走った。
初めて走った。
全力で、誰かの元へ。
見えない、聞こえない、触れない。
そんなこと忘れて走った。
「逃げろ!」
僕は叫んだ。
僕は透明にんげん。
僕の声は彼女には届かない、はず。
なのに、彼女は僕を見たんだ。
一瞬だけだけど。
そしてふっ、と笑ったんだ。
僕を見て。
透明な、僕を、見て。
《だ い じ ょ う ぶ》
彼女の口はそう動いた。