彼岸と此岸の狭間にて
〔3〕                     
(暖かい…)                  
道中、殆ど雨に祟(たた)られた。今、茶屋で一息付いて火鉢に冷たくなった手をあてていた。                 
(あと少しで府中宿だ!と言ってもあと半日ほど歩かないとダメらしいが…)             
「親爺さん!」                 
「へいっ!」                  
「40ぐらいで10歳ぐらいの丁稚を連れた商人(あきんど)を見かけませんでしたか?」                   
「どちらに向かいなさる?」

「江戸!」                   
「もしかしたらあの二人連れかな!?」                  
「いつ、ここを通りました?」

「一時(いっとき)ばかり前かのう!?」

(一時だから、約二時間前!よし、府中宿で合流できるな!)

「親爺さん、ありがとう。茶代はここに…」                
「はい、お気を付けて…」            

店を出るとまだ小雨状態だった。

(土がぬかるんで歩きにくいが府中までだからなんとかなるだろう!?)                                                                                                               



府中にある宿屋はそれ程多くはない。                   
(一軒一軒あたっていけば会えるか!?)               
最初の一軒目に飛び込む。            
「いらっしゃいまし。おひとり様で…!?」                 
「人を探しているんですが…江戸は五本木(ごほんぎ)の『茂助』というのですが…」                     
「少しお待ち下さい………

お泊りになってるみたいですよ」
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