彼岸と此岸の狭間にて
「実は、私の店は『縮緬問屋(ちりめんどんや)』なんですが、副業として『金貸し業』もやっております」

「………」

「基本的には町人や商人に貸し出すのですが…幕府の正式な許可を得ずに貸し出していた事がつい先日判明いたしました」

「無許可営業という事ですか?」

「営業?」

「行う、という程度の意味ですが…」

「そうです。でも、これは『幕府側の手落ちでこちら側には悪いところはない』と旦那様がおっしゃいますので、私達奉公人も従前通り商いを行ってまいりました」

茂助は『勝手』から持って来た酒を飲み始めた。

「ところが、今年の三月頃でしたか、顔付きの悪い浪人が二人店にやって参りましていきなり『主人に会わせろ』と申します。

理由を尋ねましたところ、『お前の店の存亡に関わる事だ』と言われますから仕方なく会わせました」

また一口飲む。

「後で旦那様から聞いたのですが、先の二人はある武家のお使いで『無免許の事を黙っていてやる代わりに金を貸せ』と言われたそうです。

それで『いか程?』と尋ねてみればなんと『5千両』。それもある時払いの催促無し!」

「何ですか、それは?」             
「まあ、簡単に言えば『5千両』くれというものですかね!?」

「そりゃ、当然、断りますよね!」                    
「はい。一度目はそれで帰って行ったんですが…」             
「また来たんですか?」             
「今度は五月に…要求は更に過酷なものとなりました」
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