彼岸と此岸の狭間にて
「どのような?」                
「今度は『1万両』。形的(かたちてき)には貸し付けになっていますが、利息が殆ど『無し』。これで踏み倒されたら店は間違いなく潰れてしまいます」              
「で、断った?」                
「ええ…」                   
「その後は?」                 
「八月に。今度は『3千両』となりましたが、期限を決めてきました。その日までに金を払わなければ奉行所に訴えると言ってきました」                     
「その期限とは?」              
「旦那様が襲われた日です」

「なぜ襲われたのでしょうか?」

「多分、旦那様が番屋に逆に訴え出ようとしたからではないでしょうか?」              
「浪人達が訴えを阻止した!?」         
「そうではないかと…」        
(まさか山中殿が絡んでいるのでは?…あっ、『竹光』か!?)

「店に来た浪人の風体(ふうてい)を覚えてますか?」

「あまり、はっきりとは…あっ、ひとりは右頬の所に『刀傷』がありました」             
(『菱山』だ!間違いない!)                      
「もうひとりは、丸顔で目と口が小さい?」                
「う〜ん、違うと思います」

(『土門』ではないのか?そういえば茂助殿は甲府で『土門』に会っている。となれば、違うのは明白!)            

「では、細身で小柄?」             
「いえ、どちらかと言えば品のある顔立ちをしていました」

(山中殿ではなかった)                    
「先程、その浪人達はある武家の使いで来たと言われましたが、その武家とは何者ですか?」                  
「恐らく『荻原重秀』ではないかと…」
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