彼岸と此岸の狭間にて
(荻原、荻原…甲府でも聞いている。佐衛門殿が土門がその荻原の使いで来たと言っていた。『キーパーソン』か!?)                  
「『荻原』とは何者ですか?」

「私もそれ程よくは知りませんが、五代将軍綱吉公の下で側用人[そばようにん:将軍の相談役]の役職にありましたが、新井白石と激しく対立して幕府から追放されたと聞いています」            
(それ程の重要人物が何故菱山や土門などの素浪人と絡んでいる?…待てよ、山中殿も絡んでいる事になる!!ヤバいぞ、『道場破り』のヤバさの比じゃないぞ!)                     
「そんな人物が何故?」             
「さあ、『謀反』でも企ているんじゃないんですかね!?ははははっ」                
「ところで甲府で急用が出来たと言ってましたが、何だったんですか?」               
「あれは、佐衛門さんが『柳沢吉里』様と関係を持つのも今後の為に良いだろうという事で付いていっただけです」                  
「その時、ひとりの浪人がいましたよね!?」                 
「あ〜っ、名前は忘れてしまいましたけど」                
「どんな用件だったのでしょうか?」                   
「分かりません。私はあの浪人とは行動を伴にしてませんから…」

「そうですか!?兎に角、明日は江戸に入れるんです…もう、寝ましょうか!?」                     
茂助は微酔(ほろよ)い状態であった。                  
「そうですね、寝ましょう、寝ましょう!」                            
(明日はいよいよ『本丸』…雪乃殿にも会えるし、綾野の手料理にも有り付ける。だが、心配は山中殿…早めに会わなければ…)                          
一度落ち着いたと思われた雨がまた落ち出していた。疲れている筈なのに精神が昂揚して眠れない。葵にとっては寝苦しい初秋の夜であった。
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