彼岸と此岸の狭間にて
(うっ、まだ寒いや!)             
カーディガンを着込んで一階に下りる。                                          
「おはよう!」                             
母親はリビングの壁時計を指差す。                    
(はいはい、無言の抵抗ですか!?)                   
時計は午後2時を示していた。                      
「電話って、誰?」               
母親は首を横に振って『存じ上げません』との意思表示をする。                                           
リビングのテレビ脇にある電話の受話器を取る。長い時間の保留に相手の我慢はその限界を越えているかもしれない。                   
「お待たせしました。葵ですけれども…」                 
『……』                    
「もしもし…」                 
『も……』                   
声が小さいのか電波状態が悪いのか!?                  
「もしもし…」                 
『も…も…』                  
「あのお〜っ、声が小さいんですけど!どちら様ですか?」                     
『や…な…と言います』             
「すみません、もう少し大きい声でお願いできますか?」                      
『山中と言います。聞こえますか?』                   
「はい、聞こえるようになりました」                   
(山中って誰だ?声の感じからすると50は越えているぞ!)                    
『紫馬葵さんですか?』             
「はい、そうですけど…」            
『私、山中英治と言います』                       
(『山中英治』…聞いた事のある響き!?ん、ん、んっ、もしかして〜っ!?)
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