彼岸と此岸の狭間にて
「失礼ですけど、『山中英治』ってあの『山中英治』さんですか?」                 
『あはははっ、あの【山中英治】です』                  
(キタ〜〜〜〜ッ!!!でも、どこか訛りがあるのは?)                      
「あの〜っ、どちらからお掛けですか?」                 
『福島の郡山です』               
(やはり…)                  
「福島からですか!?」             
『連絡が遅れて申し訳ありません。体を壊して入院していたものですから…』             
「いえいえ、それより何故僕の事を?」                  
『長谷部徳蔵さんから連絡をもらっていました』              
「長谷部さんから!?」             
『はい、その後体調を崩して入退院を繰り返していたものですから、中々連絡を取る機会がなくて…』              

「そうだったんですか?それで、今は?」                 
『お陰様でなんとか…ただ全快というわけではありませんが…』       
「そうですか、わざわざありがとうございました」             
『いえ…』                   
「あの〜っ、失礼な事を聞くようなんですが…」              
『はい!?』                  
「『巻き物』上は『英治』さんが最後になっているんですが…」

『私が山中家の最後の末裔です…』

「奥さんとかお子さんは?」

『妻は2年前に…子供には恵まれませんでした』              
「そうでしたか?」


葵はこの時、今、この人に会わなければ取り返しが付かなくなるのではないかと考えた。
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